寒い

耳が凍る。



そういえばあれも2月だった気がする。極寒のシベリア。
森は続き、ジャガイモは売られ、私たちは揺られた。
本当になにもしなくてよかった8日間。
なんて贅沢だったんだ。



今の私に、少しだけ、分けて欲しい。少しだけ。



寒さと一緒に。



時間を。



それは叶わぬと知っていて、ただ時間だけは、
双方向性の性質をつむぎだせぬことを知っていて、
そんな私が望むのは、



過去を消してしまうことだけ。



いろいろなつながりもしがらみもぜーんぶ消して、
何とか生きていけるのなら。



けれど私は、それも無理と知っていて、
なぜなら、わたしは、つながりやしがらみに生かされている。



つまりは、そのつながりやしがらみこそが自分自身であり、
この寒さを感じる耳たぶは
ただそのつながりやしがらみが生きるためだけに作られて、
寒さでさえも、
私が文章を書くために存在していて、
シベリアですらも、
私の記憶をつなぐ一部となって
氷りか何かを融かすために存在している。



ああ、寒い。