意味がなくてもスウィングはする



※この項は、気が向いた時に時折編集してます。年々、私自身のジャズの聴き方が変わってきてまして、昔の文章を読んでいるとたまに気持ち悪くなるからです。ご容赦ください。





このブログを訪れる人の大半は、it don't mean a thingをぐぐってくる人たちなわけで、それを無視して、全然関係ないことばかりを書いているのも、だんだん申し訳なくなってきたわけで、今日は、it don't mean a thingについて書いてみようと思います。mean a thing で「意味する、意味がある」、それにnotがついて、not mean a thingで「意味がない、たいしたことない」、...これ以上、英語の話はできなさそうなので、ジャズの話でも。



It don't mean a thing……それは、偉大なジャズの作曲家、デューク・エリントンの名作。正式には、"It don't mean a thing if it ain't got that swing"、邦題は「スウィングしなけりゃ意味ないね」(コード進行と歌詞は、こちら)。曲名という枠を離れて、ジャズの真髄を表す言葉としても有名です。



また、It don't mean a thingという文章は、いわゆる教科書レベルの文法からすれば、おかしい英語そのものなのですが(本当はdoesn't)、これをまともな英語で言おうとすれば、スウィングはできず、曲の最初からコケてしまいます。まさに、スウィングのためにある言葉なのだなー、と思います。



で、このブログのタイトルのIt don't mean a thingは、トミー・フラナガンの『マイルストーンズ』というアルバムの1曲目に由来します。(後日注:リンク先は「The Trio」というCDになっています。マイルストーンズというCDは既に販売されておらず、再版される際に改題されたようです。)トミー・フラナガンは他のアルバムのほうが有名で、このアルバムをまず最初に挙げる人というのはあまりいません。でも、私がこのアルバムのこの曲のことを大切に思うのは、人を救う底知れぬ明るさがあるから。音楽はこんなにも人を幸せにする、ということを教えてくれた大切な一枚なのです。(試聴はこちらから)



Duke本家のものとしては.....正真正銘本家本元はここでも述べるまでもないので、その他のものということでいくと、『Ella & Duke at the Cote D'Azur』というアルバムに収められているエラとの共演なども楽しくてよいです。音楽というのは音を楽しむことなんだなー、というのが、ストレートに伝わってきます。初っ端から笑い声あり吹き出しありな感じです。(試聴はこちらから)




ちなみに、エラのIt don't mean a thingといえばもうひとつ外せないバージョンがあります。『Ella in London』のバージョンです。ジャズの歴史解説(実演)付きのIt don't mean a thingが聴けます。この曲に限らず、ではありますが、エラの音楽のすごいところのひとつは、基礎をはずさない、というか、つまり、歴史をきちんとふまえたうえでの解釈があるというところかと思います。(試聴はこちらから)



あとは、かるーくかるーく聴きたいときには、アニー・ロスの『アニー・ロスは唄う! 』というアルバムに収められているものなどもよいかもしれません。ピアノレスの中でのサックスのジェリー・マリガンのサポートが素晴らしい。(試聴はこちらから)



それと…It don't mean a thingのギターとベースのデュオで、ものすごくカッコいいのがあったのですが、一体誰の演奏だったのすら分からなくなってしまいました。ま、そのうち見つかるような気もして、放置してます。



そういえば、村上春樹さんはIt don't mean a thingをもじって、『意味がなければスイングはない』という本を出版されましたが、人はどういう音楽にスウィングを感じるか?スイングの成立条件とは?という観点から書かれた本です。



私は、物書きでもないので、文章でスウィングを伝えるというのは難しいです。ただ、異様なエネルギーが見える...。でも、それ以上、うまく言葉にはならないですね。

うまく言葉では伝えられないので、私がよく聴いた曲を速度順に5曲紹介して、今日の日記は、おわりにしたいと思います。一応、複数の人々の勧めで聴きはじめ、私自身も実際に聴いてよかったな、と思うものにしてみました。




この曲が十八番などと言ってしまった日には、題名アンドあり得ない歌詞のせいでよからぬ誤解を受けることうけあいですが、素敵なコード進行等々、曲そのものは、ジャズにぴったりの名曲ではあると思います。

この曲自体の名演はここにあげたものよりも他にいろいろとあると思うのですが、ここではアルバム自体への愛着とから、エロール・ガーナーのライブ盤を選びました。エロール・ガーナー自体の評価は、前出の本にも出てきており、今さら私がいうことでもないのですが、オケを聴いているのではないかと思うほどの左手のゴージャスな伴奏、初めて聴いた時の衝撃は忘れられません。(試聴はこちらから。)





ナット・キング・コールは、私にとって、スウィングの神様のうちのひとりです。

ちなみに、Candyを選んだのは、ただひたすら、個人的なお気に入りということによります。このアルバムはとにかく全てがスウィングの教科書です。(試聴は、こちらから。)




エラ・フィッツジェラルドは、どちらかというと、ジャズボーカリストというよりは、何でもボーカリスト、というか、日本でいうところの美空ひばりみたいな存在のような気がします。彼女の音楽には、スウィングにとどまらない、彼女独特のリズム感が溢れているように思うのです。

ただ、初期の頃のCDでは、基本に忠実なスウィングをたくさん聴くことができます。私は、ほとんど発掘のような作業により、このCDを見つけたわけですが、その後、プロのアーティストの方も、このCDのこの曲はとてもいいとおっしゃっていたのを耳にして、発掘したかいがあったな、と思いました。

とてもおだやかで、気持ちの良いスウィングです。




チャーリー・パーカー。ただひたすらすごい人だと思います。彼の手にかかると、すべての音が生命をもって、音楽そのものが変わってしまう。このアルバムは、ストリングスにのって、とてものびやかなところが気に入っています。

彼の音楽は、残念ながら録音が極端に少なく、買ってみるととんでもない音質のものもかなり多いですが、このアルバムは安心して聴けるのもよいところです。(試聴はこちらから)




ダブルテンポを除けば、私みたいな初心者にとって心地よいスウィングをしやすいのは、このぐらいのテンポまでかな、という気がします。

この円熟したスウィングというのは、晩年のレスター・ヤングテディ・ウィルソンだったからできたのであり、初心者がとてもマネできるようなものではないと思っています。晩年のレスター・ヤングのほかの作品というのは、聴くのがつらいものまであったりしますが、この一枚の完成度というのは、本当にすごいです。所謂、紙一重という状態の中で、生み出されたのだろうな、と思います。どんな風にスウィングしたいかと聴かれれば、迷わずに、こんな風に、と答えます。無理であろうと。しかし、どんな風に年をとりたいか、といわれると、こんな風に、とは間違っても言えない私は、ある意味だめな人間だなーと思います。

ちなみに、このCDの中で、この曲を選んだのは、一番軽快なスウィングだから。元気になれます。(試聴は、こちらから。)





お断り:正直、この日記は、初心者の思いを綴っただけなので、基本的に私見の域を出ません。思い込み、間違い等々、たくさんあると思います。気長に修正していければと思っています。



おまけ:Jazz Vocalの名盤にひたって、ときにはどきどき、ときにはゆったり、してみませんか?